米運営の放送のチベット報道、中国を怒らす
妨害電波への完全なる撃退法はゴムバンド
NICHOLAS ZAMISKA and GEOFFREY A. FOWLER
ウォールストリート・ジャーナル(4月29日)
【香港】先月のチベットでの騒乱の最初の報道は、主要な新聞や通信社あるいはテレビ局からでもなかった。それは米国が出資している短波放送からであった。その放送は聴取者に、アルミ箔とベニヤ板、ゴムバンドで中国の妨害電波をかいくぐるよう助言している。
現在年間3400万ドルの議会からの予算で、ワシントンに本部のあるラジオ・フリー・アジア(RFA)は、中国語、チベット語、中国の新疆地方のトルコ語系の言葉であるウイグル語など9の言語でアジアに関するニュースを全域に向けて放送している。
チベットでの危機についてのRFAの報道は、米国政府の冷戦時代の放送をめぐる中国との昔からの面倒事を再燃させた。一方で、放送の使命をめぐる以前からある問題も浮き彫りにさせた。つまりその放送はニュース機関なのか、それとも宣伝機関なのかである。
外務省広報官によると、中国政府はその放送が「中国について客観的でなく、不公正でバランスの取れていない報道を長期間にわたってしてきた」と主張する。 「多くの外国メディアがチベットについてのその放送のニュースを報じたことをわれわれは知っている。そうした不正確なニュースは、中国人民と外国のメディア専門家から多くの非難を招いている。われわれはRFAが今後、中国について客観的で、公正でバランスのとれた真の情報を報じるように望む」と広報官は述べた。彼女は、その誤りが何を指すのか特定しなかった。
RFAは、正当な仕事をしていると主張する。同放送の広報官、Sarah Jackson-Hanは「われわれは第一番に最良で、最も信頼のおけるニュースを得ようと激しく競争している」と言う。
RFAはチベットに有給のスタッフを持たない。最近の騒乱まで、頻繁にチベットに旅行していた2人のフリーの記者がいる。チベット語の番組制作をするスタッフはワシントンに30人以上いる。チベットの一部の僧侶は、RFAのニュースはいつも聞いていると言う。
チベットでの騒乱についてのスクープは、RFAのトークショーから出た。ワシントンの3月10日の朝、RFAの記者はいつもの筋からスカイプを通じたインスタント・メッセージを受け取った。そのメッセージは、ラサに向かっていた約300人の僧侶が中国の警察に阻止されたというものであった。「治安軍と僧侶の間で衝突もあった」とメッセージは伝え、「僧侶の一部は負傷し、50人から60人が拘束された」と述べていた。
スカイプを使って、RFAの記者はチベットにいる別の筋と連絡を取り、その筋は拘束のニュースを裏付けた。RFAはワシントン本部のスタジオからそのニュースを生で流し、中国全土に放送した。
RFAは暴動での死者が出たことも最初に報じた。Jackson-Han氏によると、RFAは複数の人々から通報を受けた。彼らは事件を目撃した。ひとりは「2人が警察に撃たれて、彼の真ん前で死んだのを実際に見た」と彼女は語った。
RFAの報道は、ウォールストリート・ジャーナル紙やニューヨーク・タイムズ紙など世界中の新聞に引用された。中国政府は、ラサでの暴動で約20人が死亡し、そのほとんどが漢族であると言っている。チベット亡命グループは、その後の鎮圧で100人以上のチベット人が殺されたと言う。同放送はその後、反政府分離主義者に直面している新疆でのウイグル族の騒乱についてのニュースも報じた。
誰も耳を傾けない孤独な声
RFAは、太平洋の北マリアナ諸島と公表されていない10数か所の地点から放送されている。その放送は短波に依存している。なぜなら、気候や時刻、太陽からのエネルギーの爆発次第であるが、1台の送信機で全大陸に向けて放送することができるからである。その技術は1920年代に開発され、英帝国がロンドンと遠く離れた植民地の間でメッセージを伝えるために使われた。
中国政府はRFAの放送を、同じ周波数に京劇や葬式の音楽、ゴング、雑音、その他の干渉を放送して妨害し、事実上、RFAの送信をブロックしている。中国の国家広播電影電視総局はRFAの妨害についての質問に返答しなかった。
音楽で妨害されるRFAチベット語放送 RFAのウェブサイトも中国でブロックされているが、妨害電波がRFAを完全にはかき消すことがないようにラジオのアンテナをどのように改造するかのやり方を説明している。必要なものは4つの留め金、2個のゴムバンドかひも、2枚のアルミ箔、2本の小さなワイヤー、木の板。「ベニヤ板か似たようなもので大丈夫」と説明は言う。
RFAは1994年に議会によって設立された。それは「米国の声」も運営する放送理事会の下にある。RFAの幹部は、同放送が中央情報局(CIA)と関係があるとの主張を否定する。1950年代に同じ名前で運営し、現在の放送局とは関係がない放送局はCIAと関係があったかもしれない、とRFAは言う。
放送理事会のジェイムズ・グラスマン会長は最近、Asia Times Onlineへの手紙で、RFAのスクープは「苦労して得られてきた。主に、信頼のおける筋を育てることによってである」と述べた。同会長は、香港に本部のあるインターネットのサイトであるAsia Times Onlineが、RFAはCIAのために働いているという記事を掲載したため、その手紙を出した。
RFAの批判者は、同放送が中国の反体制派や内紛についてのニュースに多くの放送時間を割き過ぎていると言う。コロンビア・ジャーナリズム・レビューの1999年の記事でVOAのマーク・ホプキンス元支局長は、RFAとその姉妹局での「番組での偏向は明らかである」と書いた。そうした局は中立であるべきという設立時の指示があるが、米国の放送制作責任者は「外国人の考え方、住み方、統治のされ方に影響を及ぼすよう使命を持っていると信じている」と彼は書いた。
再び最新の話題
広報文化・交流担当国務次官のカレン・ヒューズの後任としてグラスマン氏を指名したことで、政府運営の放送の客観性が再び政治的な問題になった。1月に議会で証言に立ったグラスマン氏は、イランでの放送が十分に親米的になっていないという非難を受けた。
「われわれはプロパガンダをしているのではない」とグラスマン氏は言った。彼はイスラム過激派のメッセージに積極的に対抗するために働くと語った。だが、彼は「米国の声」などの放送は「正直でなければならない」と強調した。グラスマン氏の指名はまで承認されていない。
2004年に引退したRFAの創立社長のDick Richterは、RFAのアイディアを最初に聞いた時は、不審に思ったという。「放送の主な目的は政府の右派共和党派の要求を満たし、基本的に主な目的は“アカを殺す”ことになる放送になるだろうと考えた」と彼は言う。「だが、わたしは“それはわれわれがしようとしていることではない”と言った。法案は、われわれは客観的でなければならないと言っている」。
中国やアジアでRFAの聴取者がどれだけいるか信頼できる推計がない。「対象にしている地域のほとんどで、人々は信用できる人以外には聞いていることを隠している。北朝鮮では、聴取者は、配偶者や特に子供たちにも聞いていることを隠すとわれわれに語った」とRFAの対外関係ディレクターのJohn Estrellaは語る。
RFAの記者は、カバーする地域の多くで入ることを公的に許されていない。記者たちは、電話やスカイプなどの暗号化されたインターネットの通信プログラムに頼っているという。Richter氏によると、RFAは人権団体や労働組織と関係のある人々を雇うこともある。なぜなら、彼らは情報通であるからである。
RFAのコールイン・ショーでは、聴取者はワシントンなどのRFAのオフィスの番号へコレクトコールをかけてくる。そして、放送局が情報筋を構築し、情報を集めるのを助ける。RFAによると、コールインの番号は時々、コンピュータの自動ダイヤルによる妨害を受けるという。
Jackson-Han氏によると、RFAは手掛かりを得るために、タイとミャンマーの国境地帯のジャングルなどジャーナリストの立ち入りが禁止されている場所へ密かに記者を派遣した。中国の病院が臓器を売るために患者から摘出しているという情報を得て、ひとりの記者がその病院を隈なく回った。「われわれの記者は臓器摘出を確認できなかった、それでその話には触れなかった」とJackson-Han氏は言う。
(翻訳 鳥居英晴)